シュ・ミゼラブル

趣味多すぎてパンク。雑な感想、メモ

東宝『エリザベート』2019を観終えて考えたこと、8/23の感想

東宝エリザベート』2019年公演が終わって1ヶ月以上が経った。
3ヶ月のロングランは運営側にとっては色々負担だったと思うが、お陰さまで5公演観ることができた。
最後の観劇が終盤の8/23のマチネ、ソワレだったので、その時の感想を交えて記録したい。

 

 

8/23もマチネ・ソワレ共に素晴らしかった。古川さんも(井上)芳雄さんも大好きなので甲乙はつけられないが、観た5公演の中で印象に残ったのは8/23のマチネ。
6月ぶりに見る古川さんのトートは、以前より落ち着きがあり舞台全体も暗く冷たかった印象。 心が締め付けられるような回だった。

 

 

少なくともこの国での『エリザベート』は「シシィと黄泉の帝王トート閣下の愛の物語」とがメインとされていると思う。ポスターもそんな感じあるし。
しかし単にそれだけで終わってほしくないなーと個人的には思っている(何様?)。
わたしが観ている『エリザベート』は、「シシィが王妃エリザベートとして歩む運命(死を含む)の中で、固定観念や決められた道に縛られず「自分の人生を生きたい」と葛藤する物語」が軸にある。そこに世界の歪みや価値観の変化、そこに巻き込まれる人々(代表でルドルフ)を同時に描いている...と勝手に考えている。いわば大河ドラマ
どんな演出でも(※)許容してるご様子のクンツェさんなので、この自己流の考えも「解釈の自由」として許してくれそう(会ったこともないのに友達みたいに言うな)。
※どんな演出でも:国ごとにちょっとずつ演出のされ方が違うという意味で

 

とりあえず個人的に理想の『エリザベート』があって、雰囲気は「暗く冷たくあれ」なので、8/23マチネが理想に近かった。ついでに座席も前方センターで最高だった。

 

  •  古川トートの変化―心の隙に入り込む

この回での古川トートさんは静けさを纏っていた。
「シシィを死で支配する」というよりも、「シシィが弱さを見せたときに振り返れば死が寄ってきている」という感じ。
花總まりさんのシシィには「覚悟と気品を纏いつつ、ふとした瞬間に崩れ落ちてしまうような儚さ」があるので、その心の揺らぎから生まれた隙間にスッ(っていうかヌッ?)と入り込むような、そんなトートに仕上がっていた。

『愛と死の輪舞』の場面。以前は少女シシィを見つけ「嬉しい!」とか「見つけちゃった!」という感じを全面に出していたが、今回その喜びは圧し殺されており、憎しみに近い感情に変わっているような表情だった。


これも個人の勝手な解釈だが、トート(死)はシシィの 「運命もを変えていきそうなバイタリティ」に魅力と恐怖を感じていて、それをいかに思い通りに持っていくかの駆け引きを楽しんでいるのでは ?と思っている。
なので終盤ルドルフを亡くし弱々しいシシィには素っ気ない態度をとったのかな。(後に自己解決?します)

 

  • ルドルフに対する態度

どっちがいいとか正しいとかいう話でないが、
(井上)芳雄さんのトートはシシィを支配しようとしている感じ。なんとしても手に入れてやるって感じで、まさに帝王(ご自身もそう演じたいって言ってたような)。

従ってルドルフに対しては「シシィを振り向かせるための道具」として「強さと冷淡さ」を感じる。

 

古川トートさんの方は、さっきも述べたように弱さに入り込む感じ。
ルドルフに対しては「憐れみ」のような態度をとっているように見える。
『闇が広がる<リプライズ>』でも、ルドルフに語りかけるような目と、「もしかして泣いているのか?」という表情をしていた(対シシィの時の闇広でも泣きそうな顔だったが)。6月に観た時から対ルドルフに対しては優しい印象だったが、8/23に拝見したときは「単なる優しさ」ではなかった。
自分の意志を貫こうと立ち上がるも、同時に死へと向かっていくルドルフの運命に対する「憐れみ」が溢れる表情をしていた。

 

実際にご本人も対ルドルフのシーンにはこだわりがあったらしい。
先日送られてきたFC(実は入っている…)会報内でのインタビューで「母親から得ることができなかった愛情を与えるような感じで向き合っている」みたいなことを仰っていた。母性。古川トートはママ。
他にも長くルドルフを演じてきたことを踏まえて、


「僕自身は、トートはルドルフが自分で作り出し、映し出している存在、ととらえていました。最後の“マイヤーリンク”でも、死が近づくにつれて葛藤する振付がついていたこともあって、そんな解釈をしていました」

www.musicaltheaterjapan.com

観て感じ、考えるのが芸術鑑賞のツボというか、私のこだわりなので、観て考えて自分の答えが出る前にインタビュー等はあまり見ないようにしている。なのでその後に色々と漁るのだが、この部分に関して今「やっぱりわたしの勘違いではなかったな」と謎の安堵感を得た。

 

  • 理解しづらい「まだ私を愛してはいない」

そうすると、亡くなったルドルフを哀れみ、自暴自棄になって死を望んだシシィに対し、トートが「まだ私を愛していない」と突き放したことになんとなくだが納得がいくような気がする。
他にもシシィが死を望む場面はあるが、その時とは異なり、一度自分が突き放したルドルフを惜しみ、弱弱しく死に頼ろうとする。意志がブレているような、エゴで死を求めるシシィにトートは魅力を感じなかったのかも。
ルドルフのように「衝撃を与え、人(父含む)の心を動かす」ことや、途中シシィがフランツヨーゼフに対し「死」で訴えようかと考えた時のような「意味のある死」、それが「トートが許す死」なのかもしれない。

 

  • ルキーニについて

ここでルキーニの話に変わるが、ルキーニは「命を操る力を持つトート閣下」に憧れ、崇拝している。だが「トート閣下」は崇拝の対象であるだけでルキーニには目もくれない。
仮にトートがバイタリティ溢れる者に魅力を感じるとすれば(出典:自分)、死に憧れるルキーニは魅力がない。唯一接点があるのはヤスリを取らせる時だけ...名前まで呼んでるけど。 それもルキーニの幻聴かもしれないけど。

ルキーニの罪は、トートにしか許されない「命を操る」 という行為(シシィの暗殺)をしてしまったことなのではないかと思っている。
話が逸れるが、仏教には「修羅道」という考えがあり、能楽でよく描かれている。 生前に戦(勝敗関わらず)をしたものは死後落とされる。そこでは経験した戦が繰り返され、永遠に戦い続けなければならない。
ルキーニが犯したのは「人殺し」という罪であり戦でもないし、修羅道とは全然違うのだが、100年間も繰り返し罪を問われ、舞台のラストに自殺してもまた冒頭に戻り、永遠に苦しみ続ける拷問を受けているという部分が、少しだけ似ているなあと思った。 

 

  • 成河さん

8/23マチネのルキーニは成河さんで、観察させていただいたが、ゾクゾクした。
「舞台なのでよく見えるように大きく表情を変えている」(ベロベロはしているけれども...) っていうわけでもないし、「歌がおもいっきりダイナミックで抑揚が凄い」というわけでもない(勿論とってもお上手です)。
どこにもオーバーさがないのに、セットで表現されている部分以上の情景が浮かんでくるのは、演技が本当に素晴らしいということに違いない。

素人なので、「演技が上手い」というのはどういうことなのか具体的に語ることはできないし、そもそも簡単に「演技が上手い」と一言で片づけるのは失礼だと思う。
だけどこれだけ見えないものを見せてくれるということは、それくらい訴える表現力があるということだ。
また能楽の話になって申し訳ないが、能舞台にはセットがほぼない。その中でどれだけ情景を見せることができるかが勝負であり面白さだ。その精神?が自分の中にあるので、そういう目線で成河さんの演技も素晴らしいと思った。

 

狂言回しとして観客に語りかけるときはコミカルさも交えて魅せてくる。
『結婚の失敗』の場面でゾフィーさまvsシシィパパに挟まれ「オルゥスアアアア&¥$@&#}>~~!!!」ってなるところは狂っていて好きだし、『マダムヴォルフのコレクション』で娼婦ちゃんのお尻をタッチしてその手をベロンて舐めていたところも気持ち悪さ、下品さが出ていて「も~」ってなった(語彙力)。
『ミルク』の迫力も鳥肌がたち、『憎しみ』で「民衆の(あまりいい意味ではない)アイデンティティ」を呼び起こす圧も恐ろしかった。

 

先に述べた「トート閣下への崇拝」を感じた部分は2つ。
まず『我ら息絶えし者共ども』。
閣下が降りてくる前に、成河ルキーニさんが口パクで「わたしの全てです」って言っているように見えた。 本当は何て言ってたのか、 今まで他のルキーニも言ってたのかはわからないので、詳しい人いたら教えてください。
後は最期、エリザベートを暗殺した後に口をパクパクさせていたところ。上の空で、目から涙が流れていた。閣下に近づくために達成できたという喜びなのか、動揺なのかはわからないけど。
暴力的ではなく不気味な怖さが滲む。「ルキーニが狂言回しとして妄想を舞台で繰り広げている意味って何なのだろう」と考えさせることは、この舞台に深みを与えると思う。

 

ちなみにこの回では、涼風真世さんのゾフィーもよく見ていた。単純に好きなので…。
涼風さんゾフィーは冷酷でヒステリック気味で、本当に怖い。

だけどかわいい。怒るときは口を尖らせてプンプンしてたり、フランツに対しては満面の笑みになったり。生まれたての孫を微笑みながらあやして話しかけたり、お見合いの場面で妹(シシィのママ)と楽しく笑顔で会話してたりする。表情が豊か。
そういうところがあるから厳しすぎるけど嫌いになれないし、お考えもわかるかも…と涼風ゾフィー様の侍女になってしまいそうだった(「ごもっとも!」)。
死の場面では涙が頬を伝っていて美しかった。

 

  • おわりに

書ききれないのでマチネのことを中心に『エリザベート』全体について書いたが、ソワレもめちゃくちゃ楽しかった。
ワクワクエキサイティング育三郎シートみたいな席だったからキッチュの時はお土産ねだったりしたし(笑)、芳雄さんとちゃぴさんの爆音を浴びた。ちゃぴちゃんさんの歌い方、とても好き。
(田代)万里生さんのフランツヨーゼフが涙でビショビショになる『悪夢』もすごかった。普段丁寧で正統な姿勢の人が、狂ったように取り乱す姿はより大きな衝撃を感じさせる。理想のフランツヨーゼフだよなあ。

 

これでもまだまだ言いたいことがあるけど、結構頭を使うし疲れるので、気が向いたら書こうかな・・・と思う…。

 

来年のエリザベートは大阪に来てくれるらしい。
キャストはどうなるかわからないけど、観てほしい人が5人くらい(多い)いるので嬉しい。やはり東京だと遠征のハードルがあるので、観てみて!っていうには厳しいものがある。ただチケット、取れるのかなあ…。

 

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観劇日時
①2019年8月23日(金)13:00~@帝国劇場
花總まり/古川雄大平方元基木村達成涼風真世/成河/大河原爽介
②2019年8月23日(金)18:00~@帝国劇場
愛希れいか/井上芳雄/田代万里生/三浦涼介剣幸/山崎育三郎/加藤憲史郎
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